ナオキさん / Mr. Naoki

舟越桂さんの個展が開かれていると聞いて見に行った。桂さんの彫刻の実物をあまり見たことがなく、まとめて鑑賞するには良い機会だと思ったのだ。

桂さんは世田谷区を代表する作家の一人、言わば同郷の大先輩であるので、自分のデータベースに入れておかなくてはという気持ちもあった。楠の木彫の最初の半身像「妻の肖像」も見たいと思っていた。

どうしてか分からないが、私は会場を勘違いしていて、ぜんぜん違う美術館に行ってしまう。天気も良く散歩にはもってこいだったので、良い散歩になったので良かったのだが。

美術館に着いてからは、特に問題もなく普通に見ていた。良くまとまっていて、とても有意義な展示だった。見に来て良かったと思った。

展覧会も終わるのでネタばれしてしまうが書いておこうと思う。

展示の後半に、家族 (お父様、お母様、弟) が描いた絵と自分の絵を一緒に飾ってある。その中に、私が知っているような見たことのあるような絵があったのだ。Naokiとサインしてある。

え、あ、ナオキさん。

そして、走馬灯のように、いろんなことを思い出した。

私は、私は世田谷区にあった現代ハイツという画廊で作品を発表してきたのだけれど、そこが立ち退きに合いなくなってしまい、それ以来、発表する場所がなくなってしまった作家なのである。

ナオキさんも、現代ハイツにいつもいる登場人物の一人だった。舟越桂さんの弟だったことは知っていたが、本人がそのことを話さないし周りも話題にしないので、すっかり忘れていた。

場所がなくなると会わなくなってしまう人がいる。携帯電話を使っていない年賀状を交換しない私にはよくあることなのだが。

ナオキさんも、そんな一人だった。現代ハイツがなくなってから会わなくなってしまった。

そして、桂さんの年表には、最近、弟さんが亡くなったことが書いてあった。

そんな中、現代ハイツの藤井さん*が、突然、目の前に現れた。幻想とかじゃなくて、ほんとに目の前に。(*現代ハイツは、岩田さんと藤井さんの2名で運営されていた)

ナオキさんだけじゃなくて、実は、私も藤井さんももう死んでいてあの世で遭っているじゃないかと感じ、なんだかくらくらする。

藤井さんに「いま、ナオキさんのことを思い出してたので、すごくびっくりした」と伝える。

少し遠くの方に、岩田さんもいて挨拶してくれた。

こういうことを書くと気分を害する人もいるかもしれないが、そうかー、美術館を間違えたのは、岩田さんと藤井さんと会うためだったんだな、と思う。どう考えても、ナオキさんにひっぱられたなー、と感じたのだった。

あの当時、2013年だと思うのだけれど、ナオキさんが葉書をくれたので、ナオキさんの個展を銀座に見に行った。

「えー、本当に見にきてくれたんだ!」と凄い喜んでくれて、なんだか、僕らには珍しく絵の話とか画廊の話をした気がする。ナオキさんが、僕が個展を見にきたことを、あそこまで喜んでくれるとは思わなくて、それが、僕も凄く嬉しかったのを覚えてる。

できることなら、もう一度、ナオキさんと会いたいなーと思うけど、きっと会っても特別なこととか話さないだろうな。僕らはそれが最後の会話になるとは思わないだろうから。

(この投稿のためにいろいろと写真を撮ったのだけれど、取りえあず、写真はなしで投稿します)

この記事を書いた人

シンヤB

アーティスト、教育者、ドラマトゥルク。詳しくは、プロフィールをご覧ください。