「写真」から考える WordPress の過去・現在・未来

9月15日 (土) に開催された、WordCamp Tokyo 2018 にてスピーカーとしてお話しをさせていただきました。その時のスピーチ原稿をここに掲載します。

September 15, 2018
WordCamp Tokyo

おはようございます。みなさま、数あるセッションの中から、私のセッションを見にきてくれて、ありがとうございます。

「写真」から考える WordPress の過去・現在・未来について、お話しします。

WordPress は、簡単に Website や Blog が作れるツールです。ツールとは「道具」のこと。今日は、WordPress というツールの過去・現在・未来についてお話しします。

過去 — 写真の発明、写真の起源

WordPress の「過去」にあたるものが何か考えてみました。写真から考えるということですので、WordPress の起源は写真の始りにあるのではないかと考えてみることにしました。

WordPress の5.0がそろそろリリースされそうな時期と考えると、グーテンベルクにかけて活版印刷技術が起源とできれば良かったのかもしれませんが、このセッションでは写真が起源として考えていきます。

1827年にフランス人のジョセフ・ニセフォール・ニエプスが最初の写真制作に成功したとされています。世界で最初の写真を、皆さんは見たことがありますか ? こちらの写真、「ル・グラの窓からの眺め」です。

View from the Window at Le Gras, Joseph Nicéphore Niépce, 1827

写真、もしくはカメラと呼ばれるツールが発明されるには、ずいぶん時間がかかりました。レンズが発明され、カメラオブスクラというトレースの為の道具が生まれ、感光材も発見されていましたが、最終的には画像を定着させることが、なかなかできないでいました。定着とは、薬品などで画像が消えないように安定した状態にし、時間が経ってからも画像を見れるようにすることです。

ニエプスの「ル・グラの窓からの眺め」が世界で最初の写真とされているのは、この写真が今でも見ることが出来るからです。他にもイメージは存在していたはずですが、定着できず、つまり像を残すことができず、今では確認することができないので、「写真の発明」とは認められませんでした。

この写真は、実はレタッチされたものなんですと言ったら、皆さんは驚くかもしれませんね。オリジナルは、このような状態です。

Point de vue du Gras by Niépce, 1827

この原板をコピーしレタッチしたものが先ほどの写真です。

さて、さらに時間を昔に戻したいと思います。

1434年にヤン・ファン・エイクが描いた「アルノルフィーニ夫妻像」です。

The Arnolfini Portrait by Jan van Eyck, 1434

この絵の大きい特徴は、鏡で像をパネルに (反射) 投影しトレースして描かれている点です。これは油絵ですが、「映像」をトレースして描いているので、写真に近い描写になっています。シャンデリアの描写は一眼的描写になっていますし、花嫁の下半身のパースが強調されているのは鏡とパネルが平行ではなかったからではないかと思われます。

後ろの壁に鏡がありますが、拡大するとこのようになっています。

Detail, The Arnolfini Portrait by Jan van Eyck, 1434

鏡の中に絵を描いている作者自身が写り込んでいます。ネタあかしをするかのように鏡を利用しています。さらに注目してもらいたいのが左側のロザリオの描写です。光が透けるような光沢が表現されています。これはまるでカメラで撮影したかのような描写と透明感です。鏡やレンズが発明されるまで、絵画の世界では、このような精密な描写はされていませんでした。

この作品は写真ではありませんが、私はここに写真の起源があると考えています。そうであれば、ここが WordPress の起源なのかもしれません。鏡というツールがあったからこのような精密かつ説得力のある絵画が生まれたのです。

実は、最近まで、鏡のようなツールが使われていたことは知られていませんでした。画家たちは自分の技術を秘密にしておきたいと思っていたので公言していませんでしたし、道具を使わないで精密な絵を描く技術があると思ってもらいたいという願望もあったのだと思います。

ジョセフ・ニセフォール・ニエプスの世界で最初の写真は、カメラと写真と呼ばれることになるツールが完成したから実現しました。新しいメディアが生みだされたのです。これは、現在の WordPress とブログやウェブサイトの関係に近いものだと考えています。WordPress があるからコンテンツが生まれているのです。

現在 — WordPress を取り巻く環境

iPhone Xs

さて、現在へと時間を進めていきましょう。2日前に時間を戻します。2日前と言えば、Apple から新しい iPhone が発表され、昨日、予約が開始されました。

iPhone Xs by Apple, 2018

新しい iPhone のカメラですが、画素数は iPhone X と同じ1200万画素ですが、センサーは新しくなるそうです。画素数を据え置きにするとカメラの性能が格段に向上する可能性が予想できます。画質はより鮮明になり、感度も向上し、ノイズも抑えられているでしょう。

iPhone に保存できるデータの大きさ、容量が512GBになります。これで、一眼で撮影した写真も iPhone にすべて取り込んで処理できます。もうノートパソコンを現場に持っていく必要はありません。

新しい高性能のチップも搭載されることもあり、機械学習による機能も進化するようです。HDR機能を進化させたスマートHDRや、被写界深度を後から変えられる機能なども発表されています。高性能のカメラで撮影した写真との違いを区別するのは、ますます難しくなっていくでしょう。

iPhone というツールは写真を撮る、編集する、見せるということをとても簡単にしました。より綺麗に撮影できるカメラを搭載した iPhone は、多くの人が写真をブログやSNSなどで見せたいと思わせるでしょう。容量が大きくなったこともあり、ブログも写真も、すべての作業を iPhone Xs で完結できます。もうノートパソコンはいりません。

Gutenberg

WordPress の新しいエディター Gutenberg も iPhone と同じ状況を作っていくでしょう。まだ開発中ですが、Gutenberg とはなにかと聞かれれば、今よりさらに簡単に美しい Website やブログが作れるツールです。

WordPress Gutenberg Editor, 2018

「ブロックエディター」という新しい編集ツールは、html について考えることなくコンテンツを作っていけるのが特徴です。実際、編集中に html コードを目にすることはほとんどありません。さらに、近い将来、よりモダンなレイアウトを簡単に組み立てられるようにもなるでしょう。Gutenberg が素晴らしいツールになっていけば、さらに多くのコンテンツが WordPress から生まれます。

簡単に美しいものを作れるツールは、多くの人にブログを書いてみたいと思わせるでしょう。

未来 — WordPress の未来

そろそろ、WordPress の未来についての話をしていきたいと思います。

メディアライブラリー vs 埋め込み

私は、 iPhone で撮影した写真を毎日 Instagram に投稿しています。

Instagram
@shinyabw

Gutenberg では、ブロックの中に埋め込みという便利な機能があるので、Instagram の投稿を簡単にブログに埋め込むことができます。

Gutenberg での埋め込みデモ

この機能は、写真をブログで使う際、私たちに二つの選択肢を与えます。一つは、写真のファイルを自分のサーバーにアップロードしてメディアライブラリから使う方法、もう一つは、Instagram に投稿したものを埋め込む方法。

どちらを使うべきかは悩ましいところですね。私の場合は、iPhone で撮影・編集されたものは Instagram にポストしますので、ブログには Instagram を埋め込む方が、断然に楽なので、Instagram を埋め込むようになりました。

道具との未来

写真の世界では、新しい技術が使われた「道具」がどんどん作られています。

Google は、NIMA: Neural Image Assessment という画像を技術的に審美的に美しいかを評価するニューラルネットを提案しました。コンピュータが画像の美しさを判断する「道具」です。

NIMA: Neural Image Assessment by Hossein Talebi & Peyman Milanfar, 2017

この機能が検索のランキングに影響を与えると、どうなっていくのか。まだまだ、我々が仕事をしているインターネットの世界には新しいストーリーが待ち受けているようです。

これと同じような機能で、カメラに搭載された AI が、シャッターチャンスになると撮影者に振動で「いま撮影 !」と通知する機能の開発もされています。シャッターチャンスを教えてくれるカメラ、どんなことになるんでしょうか ? オートフォーカスと同じように使うことになるのか、面白そうなので、ちょっと楽しみにしてるんです。

Adobe も、Adobe Sensei という道具の導入を始めました。これは、人工知能 (AI) とマシンラーニング (機械学習) を駆使し、クリエイティブな作業のサポートをしていく道具です。

Adobe Sensei by Adobe, 2017

これらの「道具」は、コンテンツの制作をどんどん簡単にしていくと思います。もちろん、これを使うと良いものができるのかという議論もできますが、スマートな私たちは使い方を生み出していくでしょう。

もちろん WordPress にも、これと同じような「道具」が導入されていきます。

SEO の評価をしてくれるプラグインなどは存在しており、さらに進化していくことが予想できます。Gutenberg で、メディアライブラリを使う方がいいのか、Instagram を埋め込む方が良いのかの判断もしてくれるはずです。

音声認識も取り入れられていくと思います。ブログを書くのにキーボードをタイプしないとならないなんて、全時代的ですから。iPhone に向かって話せばブログが作れるようになります。

写真も Google が開発している NIMA のように、どの写真を選べば良いのかも「道具」がしてくれます。Adobe Sensei は、その写真をとても綺麗な状態に調整してくれることでしょう。ロゴやイラストも、あなたの指示通りのものがすぐにできるようになるのかもしれません。

これが、WordPress の未来です。あなたがすることは、iPhone に話しかけるだけ。

そして、皆さんに、最後の質問です。

このような未来において、私たちはなにをするべきなのでしょうか ?

ありがとうございました。この後は、ネットワークルームにおりますので、質問等ございましたら、是非話しかけてください。

Photo: mimi

この記事を書いた人

シンヤB

アーティスト、教育者、ドラマトゥルク。詳しくは、プロフィールをご覧ください。