…for me, the basis of art is love. I love life. / …對我來說,藝術的基礎是愛。我愛生活。/ …私にとって、芸術の土台は愛です。 私は人生を愛しているのです。
David Hockney / デビッド・ホックニー
The ‘Field Book’ is a record of Shinya B’s uncool efforts. / 野の書とは、シンヤBのかっこよくない努力についての記録である。
アメリカの大学と日本の大学の合同授業として “Community Arts and Culture Development Practice (地域の芸術文化開発実践)” 講座を開設している。私が担当している座学の2回目があったので、自分の記録としてブログを書くことにした。レクチャー1:アートは何のためにあるのか?、ゲスト1:パフォーマンスの掟に続き、3つ目のブログとなる。
レクチャー2:トランスフォーメーション(変化・変質・変容)とアート
コミュニティアートの座学二回目のテーマは、トランスフォーメーション(変化・変質・変容)とアートとした。第一回目は、レクチャー1:アートは何のためにあるのか?で、アートの必要性・可能性について考えてもらい、第二回目は、トランスフォーメーション(変化・変質・変容)とし、アート特有の現象について考えてもらえればと思っている。
授業は、こんな風に始めてみた。
このレクチャーを企画するにあたりインスピレーションとなった本があります。それは、私たちには「なぜ芸術が必要なのか?」を調べている際に見つけた、「Why do we need art? What do we gain by being creative? And other big question (私たちには、なぜ芸術が必要なのか? 想像的でいると何を得ることができるのか? そして、他の大きな疑問)[Wayland (2020/11/26)]」という本です。イギリスの小学校4年生に向けて書かれた本です。
著者の Michael Rosenさん, Annemarie Young さんは、いろいろな角度からアートの説明をしていますが、その中で、アートのトランスフォーミティブ(変化力)について書かれている章があり、この講座を通して、初めてアートの勉強をしている大学1・2年生にとっても、トランスフォーメーション(変化、変質、変容)はアートの性質について考えてもらえるテーマと思ったので、皆さんとシェアしたいと思います。
ちなみに、Michael Rosenさんはイギリス人の児童文学作家で、活動家でもあります。Annemarie Youngさんも作家で、教育者です。実は、2人は、2017年に 、大きな疑問シリーズとして “Who are Refugees and Migrants? What makes people leave their homes? And other big questions (難民と移民は誰なのか? 人々はなぜ家を出るのか? そして、他の大きな疑問) [Wayland (2017/8/24)]”を執筆し、好評を得て、何冊かの大きな疑問シリーズを書いています。シリーズの中でアートについてフォーカスしたものが、「私たちには、なぜ芸術が必要なのか? 想像的でいると何を得ることができるのか? そして、他の大きな疑問」です。
トランスフォーミティブの章では、アートには二つの「端(エンド)」があると問いかけます。
2つのエンドは、情報を送る側と受け取る側です。送信側は、何かに感銘を受け、その体験をアート作品に「変化」させた作家です。そして、受信側は作品を受け入れた鑑者(観客)です。鑑者が何かを感じ、観者自身の何かが変われば、こちらも「変化」したことになります。
第一回の座学で、アートを説明する「言葉」を選んでもらいました。もし、授業の最後に「言葉」が変わったのであれば、それも「変化」であったと言えます。
さて、日本語には、トランスフォーメーションにあたる言葉がいくつかあるので、情報を整理します。日本語は難しいですね。変化とは、ある状態が他の状態に変わることを指しています。変質は、性質という言葉が人間の性格を指すことがあるように内面のことと考えられています。一方、変容は、容姿という言葉が人間の見た目を指すことがるように外見を指していると考えられています。
さて、。体験が作品になったのであれば、それは「変容」となるのではないでしょうか。目に見える形で状態が変わっているからです。そして、油絵のように、筆、ペイント、キャンバスを使うものは、道具というマテリアル自体も変容します。さらに、作品を通して、観者の内面の何かが「変質」したとすると、コミュニケーションが成立したことになります。これを図にしてみました。
音楽であれば、音楽家が何かに(変質的)影響を受けて(変容的に)音楽を作ります、そして、私たちがその曲を聴くと、変質が起こり、コミュニケーションが生まれたことになります。
ここで、皆さんにも絵を描いてもらおうと思います。私が、音楽をかけますので、その音楽がどのようなものなのか絵を描いてみてください。
Jan Garbarek, One Ying for Every Yang を聴きながら、学生達に絵を描いてもらいました。
いろいろな絵が出来たので、教室の壁に貼り出してもらいました。絵を見ながら、少し絵の解説をしました。曲のタイトルについて気にしている学生がいるようなので、この音楽のタイトルについて話すことにしました。
この音楽は、ヤン・ガルバレクさんの One Ying for Every Yang という曲です。Ying Yang (Yin-Yang) は、中国の思想の「陰陽」のことです。太陽があるところには影も存在していると、互いが存在することで自分自身が成り立つという考え方です。訳としては「すべての Yang には ひとつの Ying が存在する」という意味で。思想的にもとれるし、「誰にでも運命の人が存在する」というような、ロマンチックな意味なのかもしれません。作者のイメージは、大草原で星空(運命の星)を眺めているような雰囲気ではないかなと思います。
ということは、皆さんの中で「二つ」をモチーフに絵を描いた人は、音楽からメッセージを受け取っていたと考えられます。例えば、カップルがビーチで休んでいる絵、テープルの上にコーヒーカップが二つ置いてある絵、森の中で二匹の動物が立っている絵などを描いている人がいました。
面白いですね。なぜ伝わったんでしょうか。さらに、皆さんは、音楽を聴きながら、その音楽について絵を描いたのですから、ここにももう一つ変容があり、エンドの側にも星のマークができたとも言えます。スライドに星を足してみました。私は、この星から星への現象に興味があるので、今後、さらに研究を続けていければと思っています。
そして、次の絵を見てもらいます。
このジャクソン・ポラックの絵も皆さんが描いた絵のように音楽の影響を受けたと言われています。どんな音楽だったか想像できますか?
ジャズです。また音楽を聞いてもらいます。
どうでしょうか? この曲は、チャーリー・パーカーさんのキムという曲です。
絵と近い感じがしますか? 「絵より、音楽の方が明るい印象を受ける」とアメリカの大学生が発言してくれます。確かにそうかもしれません。この曲のタイトルは「キム」、パーカーさんの娘さんの名前と思われます。もしかしたら、ここには娘さんができた喜びが表現されているのかもしれません。
さて、次は音楽から絵画に移ろうと思います。こちらもスライドを作ってみました。
今回のテーマ、「変化(変質>変容>変質)」を考えるために、次の絵を選んでみました。
パブロ・ピカソさんのゲルニカです。この絵は、ゲルニカ爆撃(1937年にドイツがスペイン北部の都市ゲルニカに対して行った都市無差別爆撃)について描かれています。これも作者が戦争という体験を絵に変容し、それを見た観者の内面が変質していきます。この絵は反戦のシンボルとしてよく使われましたので、反戦運動がこの絵を通して起こったとすれば、それは、変容ですね。
さて、作者が体験を変容して「モノ」を作る例をもう一つ見てもらいます。この写真作品は、杉本博司さんの海景シリーズと呼ばれる作品です。空と海だけで構成されるこの作品はどのような背景を持って作られたのでしょうか。
1995年ぐらい、アメリカに留学中に、NYのMOMAによく行ったのですが、エントランスの左側にあったクローク室に海景がかけてあり。当時、MOMAを訪れると最初に見る作品となっていて、私にとっても思い出深い作品です。
2018年に、Louisiana Museum of Modern Artが制作した「Hiroshi Sugimoto Interview: Between Sea and Sky(杉本博司インタビュー:海と空の間)」を見てもらいます。この作品に関わる、いろいろな背景が杉本さんから語られている映像資料です。
いかがだったでしょうか。少年時代の体験(変質)が後々に写真作品になり(変容)、その写真作品自体が独自の意味を持つようになったこと(さらに変質)は、興味深いと思っています。
時間がきたので、今日は、ここまでとします。来週の座学は「コミュニティ・アート・プラクティス」です。
では、また来週。