軽井沢フォトフェス:「組写真のすすめ」 講義ノート

審査員を務めている「軽井沢フォトフェス」にて、昨年に続きレクチャーをしました。昨年は「写真は可能か」、今年は「組写真のすすめ」というお題目です。このブログは、当日にレクチャー受講者に公開した「組写真のすすめ」の講義ノートとなります。

Photo: @shiology

軽井沢フォトフェスの審査員で集まり、まずは採点をし、入選作品を決め、そして、総合的な判断からその年の一番となる「グランプリ」と、各審査員が一枚づつ自身の特別賞「佳作賞」を選ぶのですが、私が選んだ佳作賞が「組写真」となり、前から話してみたいと思っていた「組写真のすすめ」のレクチャーをフェスティバル中にすることにしました。

「組写真のすすめ」 レクチャーの流れ

  1. 組写真とは?
  2. 「犬」は写真で表現できない
  3. 写真が抱える問題 — 「記号としての写真」、名取洋之介さんの『写真の読みかた』(岩波新書、1963年)より
  4. 軽井沢フォトフェス2024 シンヤB佳作賞『谷家光香 / Coco Taniya』組写真作品の解説
  5. ユージン・スミスの『カントリー・ドクター』
  6. 休憩
  7. 土門拳の『文楽』『ヒロシマ』『筑豊のこどもたち』
  8. Adobe Bridgeを使った組写真の作り方の実演
  9. 質疑応答

組写真とは?

組写真とは、複数の写真を組み合わせてメッセージを伝える方法のこと。広義では、展示や掲載の際に2枚以上の写真を組み合わせたものを指すが、狭義では『LIFE』などのグラフ雑誌で使われた「フォト・エッセイ」の形式を指す。これは写真と文字要素を組み合わせて一つのストーリーを作る手法である。日本では名取洋之助がこの手法を広めたが、後の世代はより自由な形式を探求した。例えば東松照明は、写真同士の組み合わせによる意味の増幅を模索し、「群写真」と呼んだ。このような組写真のあり方は、現在では一般的となっている。

組写真 / Kumi Shashin』(アートスケープ/artscapeのアートワード)の要約

」は写真で表現できない

参加者に、を写真で伝えたい場合、どのよう作品になるか考えてもらい発表してもらった。

  • いろいろな犬を撮影して「写真カタログ」を作る
  • 目の前で舌を出して「はーはー」と息をしている犬の写真
  • 自分が飼っている犬の「喜怒哀楽」的表情のすべてを朝から晩まで撮影して、いかに家族の一員なのかを分かってもらう組写真

素晴らしい! 写真フェスティバルのレクチャーに参加してくれる方々とあって、どなたも「満点」の回答となった。

写真が抱える問題

記号としての写真 –『写真の読みかた』(名取洋之助、岩波新書、1963年)より

  • 写真が分からないと言う人がいる
    • 自分は写真の技術的なことが分からないので、写真は分からないと考える人が存在する
    • 写真を読むものとは思っておらず、写真をパッと見て一瞬で理解できるメディアと考えている人がいる
    • 写真は地図を読むように、読むことができるはずである
  • 一枚の写真の読み方は無限である
    • いろいろに読めることは写真の利点であるが、欠点でもある
  • 「犬」は写真で表現できない
    • 犬というのは抽象的な概念で、一枚の写真で抽象的な概念を伝えることは難しい
  • 記号としての文字、記号としての写真
    • 記号という言葉は「物」の実体ではなく、「物」の代理である
    • 文字は実物と関係ないが、写真は実物とひじょうに密接な関係にある
    • 犬というような抽象的な概念を与えにくいのは、写真が「物」に忠実な記号であるから
      • 大袈裟に言うと、肖像写真を見て、実物と勘違いする人がいる
  • 説明文が読み方を規定する
    • 一枚の写真の読み方は無限であるので、「キャプション」で写真の読み方をコントロールできる
  • 具体的表現から、抽象的表現へ
    • 「いろいろに読める読みにくさ」を克服するには、2枚の写真を並べて見せる方法がある
      • 共通した要素が強調されることを利用する(逆に、共通していない部分は弱くなる)
  • 組写真の基本的な機能
    • 写真を何枚か並べると、抽象的な概念が表現できる、例:寒さ
      • 写真を見て、過去の経験を思い出す
        • 名取は、「ふところに手を入れて歩く人」「うれしそうなベンギン」「雪のふる風景」の3枚を組写真の例としてあげ、その後に以下のように書いた

「だが、この三枚をいっしょに並べてみれば”寒さ”という感情が見る人に湧いてきます。写真は、見る人の過去の経験を思い起こさせますから、この三枚に共通する経験、”寒さ”を読みとるわけです。人間が、具体的なさまざまな事実のなかから”寒さ”という抽象的な概念を発見した、その同じ過程が、写真を見て過去の経験を思いだすという、心の動きの中でくり返されるのです」

『組写真の基本的な機能』、名取洋之助の「写真の読みかた」より
  • 見せる写真から、語る写真へ
    • モンタージュ理論(エイゼンシュテインとプドフキン)
    • 順番のルール(上から下、右から左)
    • 写真の順番が、話の進行を示す、「原因>結果」を意識的にコントロールできる
  • 社会的な写真、個人的な写真
    • 一人称、二人称、三人称
名取洋之助さんの『写真の読みかた』と共に
Photo: @shiology

軽井沢フォトフェス2024 シンヤB佳作賞『谷家光香 / Coco Taniya』組写真作品の選評

今年度の応募の中で組写真が気になった。悩んだ末、組写真の中でもっとも優れている作品を「受賞」とした。日本の写真文化を切り開いた名取洋之助は『組写真の作り方』(慶友社、1956年)の中で「写真は読むものである」と説いた。彼は地図を読むように写真も読めるのではないかと語った上で、「いわゆる芸術写真は読まれることを期待しない写真」と述べている。受賞したこの組写真は読まれることを期待していたのだろうか。人物のシルエットを含めたことで「物語」を感じさせ、影という要素で繋がる4枚の写真は私たちの意識の中でモンタージュとなり、目に見えない感覚や物語を生みだしている。影やドアは何を象徴しているのだろう。抽象的な造形美が印象に残る組写真である。

Coco Taniya 作品選評 by シンヤB, KFF2024入選作品集より

佳作賞受賞者の谷家光香 / Coco さんもレクチャーに参加してくれたので、知り合うことができました。アメリカの美術大学で写真を専攻して卒業したばかりの、これからが楽しみな写真家ということが分かりました。私もアメリカの大学で教えているので、長野県軽井沢の写真コンテストで、アメリカ美大の卒業生と出会うことがあるとは思っておらず、面白い偶然を楽しく感じました。

W・ユージン・スミスのカントリー・ドクター(1948年)

1948年、LIFE誌に掲載されたフォトエッセイ「カントリー・ドクター」は、W・ユージン・スミスがコロラド州クレムリングでの23日間、一般開業医アーネスト・チェリアーニ医師の日常を記録したものです。チェリアーニ医師はワイオミング州の羊牧場で生まれ、シカゴのロヨラ医学校で学びましたが、大都市でのキャリアを選ばず、1946年からクレムリングで暮らしています。スミスの写真は、地方医の困難とその充実した人生を詳細に描写し、「カントリー・ドクター」はフォトエッセイの古典となり、スミスは著名なフォトジャーナリストになりました。

(おまけ)コカコーラがフランスにやってきた by マーク・カウフマン

1950年に、LIFEの写真家マーク・カウフマンは、甘い清涼飲料水がフランスに正式に導入された、いわゆる「コカ・コロナイゼーション」を捉えました。第二次世界大戦前からフランスでは非公式に消費できるようになっていましたが、最初のボトルは1919年にボルドーに輸入されます。1950年にコカコーラは精力的なマーケティングキャンペーンを開始し、アメリカで獲得した人気をフランスでも高めようとしました。

19世紀後半に疑似医療飲料として作られたコカ・コーラは、まもなくアメリカの資本主義、文化、社会を反映した甘くて人工的な清涼飲料となります。コカ・コーラは当初、フランスのコカワインをベースにしていましたが、フランスの人々は、初めて広く販売された風味豊かな非アルコール飲料に懐疑的でした。

Photo: @shiology

土門拳作品の紹介

我が祖国——土門とマツィヤウスカスの二人称リアリズム

Human Baltic展(2024年5月27日〜6月9日 スパイラルガーデン)のために、シンヤBが最近書いた土門拳の記事も紹介した。

Adobe Bridge を使い組写真を実際に作ってみる実演

4日前にニューヨークから帰ってきたばかりだったので旅行中に撮影した1200枚の写真の中から、参加者の意見も取り入れつつ、懇談するような形で Adobe Bridge で組写真を作り、それに対して、参加者と一緒に解説をしてみるという実演を行なった。

いろいろな組写真ができたが、以下の5枚の組写真が印象に残った。

「1200枚が5枚になってしまった、だいたいいつもそんな感じです」と言うと、軽井沢フォトフェスのクリエイティブ・ディレクターの野辺地ジョージさんが面白いと思ってくれて、いろいろとコメントが始まり、そこから、いろいろな組写真がさらに生まれていくという場面もあり、盛り上がりました。ジョージさん、参加者のみなさん、ありがとうございます。

今回のニューヨークでの撮影は、すべて Ricoh GRIIIx で行いました。撮影が目的ではなく、別案件の旅行だったので、今回は、ライカでの撮影は断念しました。次回は、ライカの白黒で撮影したいと思っています。ニューヨークの旅の話は別のブログで書きますね。

Adobe Bridge での星のレーティングによるセレクションの様子
ラベルにて、0~5 個の星によるレーティングを、1200枚の中から使いたい写真をまずは星3個としてラベル付けをし(選び)、そこから、落とすものは星2個に、次のステージに残すものは星4個、最終選考は星5個とし、セレクションを狭めていく作業の実演を行う

レクチャーの休憩中にコーヒーを買いに行くと撮影会に

塩澤さんも私もRICOH GRIIIx で撮影
お互いの色調の差を比較できるのは面白い

塩澤さんがRICOH THETAで撮影

塩澤さん、素敵な写真をありがとうございます!!

この記事を書いた人

シンヤB

アーティスト、教育者、ドラマトゥルク。詳しくは、プロフィールをご覧ください。