渡辺貞夫さんという音

92歳 Blue Note の夜に

ブルーノートの空気が
秋の夜をやわらかく染める

静かなざわめき
息を呑む気配

アルトサックスの音が
空気を切り
心に触れる

若く
深い音 音色
長い時間を
今この瞬間に奏でる

目を閉じると
過ぎた季節が
音に溶け込んでいく

涙がでてくる
音楽を聴いて 涙がでるなんて 久しぶりだ

貞夫さんの音は
やさしく 暖かく そして
どこまでも自由だった

92歳という事実と
10際のときに聞いた音が そのままそこにあることと

いや むしろ 
その数字こそが音楽になっていたのかもしれない

音が
ゆっくり消え
拍手の波が
静かに広がる

彼は深く一礼し
さらに息を吹く

ありがとう という音

20251005 Sadao Watanabe at Blue Note Tokyo by Shinya B 2025

この記事を書いた人

シンヤB

アーティスト、教育者、ドラマトゥルク。詳しくは、プロフィールをご覧ください。